長野行きの新幹線に乗った。41歳。人生で初めての一人旅である。
こう書くと、「知らない土地へ行くぞ!」みたいな爽やかなワクワクがありそうに見える。
ない。不安しかない。そもそも陰キャが一人旅って…いや陰キャだから一人なのか?
一応、旅のしおりは作った。初日は善光寺。2日目は戸隠神社。テーマまで考えてある。
「急がない。全部回らない。一人で旅に来た時間そのものを楽しむ」
AIが考えてくれました。立派だ。非常に立派に見える。
少なくとも、家でしおりをAIと作っていた僕はそう思っていた。
長野1日目の旅のメモ
- 汗には、信仰心だけでは勝てない
- 空白は、一つだけ残してはいけない
- 日本語は、読めるとは限らない
- 親切は、ときどき別ルートで返ってくる
何を書いているのか分からないと思う。
僕も新高岡駅を出た時点では、まだ何も分かっていなかった。
41歳、中学以来の長野へ一人で向かう

長野を選んだ理由は、一つではない。
富山県から遠すぎず、近すぎない。友達から善光寺の名前を聞いたこともあったし、41歳の誕生日にアニメ『ざつ旅-That’s Journey-』の影響で「自分も一人で旅したらどうなるんだろう」と考えたときも、長野は候補に入っていた。
そして、僕が最後に長野県へ行ったのは中学生のころ。何を見たか、なんと防空壕です。
僕の中の長野県は、それから長いあいだ防空壕でした。県のイメージとしては、あまりにも地下だった。
そして、会社から夏季休暇もいただけた。そろそろ地上へ出てもいい頃だろう。そう思って、長野行きを予約。
ホテルも取った。交通も調べた。持ち物も確認した。
よし出発!
そして新幹線に乗ったところで、ある重大な事実に気づいた。
で、善光寺って何があるんだ?
そう、旅行の準備だけして長野の事をよく調べていなかったのです……。よくそれで行ったな、おれ……。

善光寺のことは、新幹線の中で知る
旅行前日までは、ホテル、交通、持ち物、翌日の予定を決めるので精いっぱいだった。
善光寺へ行く。それは決めた。その善光寺で何をするのか。そこが抜けていた。
観光知識ほぼゼロの41歳を乗せ、北陸新幹線は長野へ向かう。
ただし、スマホの中にはAIコンシェルジュがいる。
僕は車内で聞いた。
「善光寺ってどんなところ?」
旅先について調べるタイミングとしては、だいぶ後手である。
ちなみに翌日も、戸隠へ向かう高速バスの中で「戸隠ってどんなところ?」と聞くことになる。
事前学習:△ 移動中の追い込み:◎
受験なら怒られるやつだ。
ちなみにAIがちゃんと行くところをしおりに書いてくれていたので、安心しました(笑)
AIコンシェルジュ、真夏の徒歩を提案する

長野駅へ着いた。ここから善光寺まではバスがある。
ところがしおりを作るときAIコンシェルジュから、「街を見ながら歩くのもおすすめ」という案が出た。
なるほど。初めての一人旅だ。知らない街を歩いて善光寺へ向かう。
旅っぽい、採用!
そしてウキウキしながら和風の案内表示を見たり、知らない店を眺めたりしながら北へ向かう。知らない街を一人で歩く。
おお。これが一人旅か!とテンションはあがったままだが、途中で気づく。
……暑い。

この日の長野市の最高気温は33.6℃。旅情はある。でも、それとは別にしっかり暑い。
歩けば汗が出る。たぶん止まっても出る。僕はリュックの中から、すぐ取り出す。
そしてこの後AIこう言う事になった。
「長野の夏は日傘必須!!」
一人旅の最初のライフハックは、日傘のありがたさ、だったのでした。
ちなみに長野駅から善光寺まで、歩行記録では2.39km、37分59秒、3,043歩。
思っていたよりハードな始まりだった(笑)。
善光寺、人、多っ!

汗をかきながら歩いて、ようやく善光寺へ着いた。
最初に出た感想は、ありがたいものではなかった。
「人、多っ!」

もっと静かなお寺を想像していたけれど、実際はお店が並び、観光客が歩き、子どもたちの姿も多い。
僕の中では、少し浅草の雷門に近かった。
静寂。厳か。鐘の音。……みたいなイメージで来たのに、普通に観光地だった。
いや、善光寺だから当たり前なのか?と思いつつ、まず向かったのは山門。
参拝券売り場が近くにあったので、そのまま流れで入った。
善光寺参拝セット券は一般1,500円。本堂内陣とお戒壇巡り、山門、経蔵、史料館などを回れる。
ちゃんと書いてある。僕も見ている。
ただし、頭には入っていない。
まず山門に上りつつ、この時点でもどこに進んでいるのか分かってないのだった。

極楽へ向かう列で、汗腺部隊が暴走した
山門の次は本堂へ向かい、お戒壇巡りの列に並んだ。
御本尊の真下にある真っ暗な回廊を進み、「極楽の錠前」に触れる。そういうありがたい体験らしい。
ありがたい。ありがたいのだが。
暑い。

寺内には扇風機がある。風が来る。おお、助かる。
……三秒後、来ない。
首、背中、たぶん脇も。汗が止まらない。しかも周りの人たちは妙に涼しそうに見える。
なんで? 暑くないの?
暑い中を歩いてきたんだから、汗をかくのは当然だ。頭では分かっている。でも、一度気になり始めると別の問題が出てくる。
匂ってないか。
近くの人、大丈夫か。周囲の汗腺は夏季休暇中。
僕の汗腺部隊だけ、全軍出撃していた。
ちなみにお寺の中に進むにつれて黄金の仏様などが近づくというのは、極楽に向かうという疑似体験という意味もあるのだが……。
極楽へ進むはずなのに、僕だけ地獄側へ並んでいる気がしたのだった。
後ろでAI会議が始まった
そんな汗腺総力戦の最中、後ろからスマホの声が聞こえてきた。
男性がAIと話している。善光寺について音声で質問していた。
おお。仲間がいた。
僕も新幹線からAIコンシェルジュに聞きっぱなしである(音声は使っていないが)。汗だくの僕と、AIと会話する後ろの男性。
令和の善光寺参りは、少し未来だった。
その男性が途中でAIに聞いた。
「写真撮っていい?」
え?と思った。さっき入口には撮影禁止と分かる表示があったから。隣の奥さんも「ダメでしょ」と言っている。
うん。僕もそう思う。
でも男性は、AIの返事を待っているように見えた。
AIは「おすすめしません」と答えた。
そこで納得したようだった。
……え、そこなんだ。
看板でもなく、奥さんでもなく、最終審議AI。
もちろん、ただAIを試していただけかもしれない。思ったことをそのまま口にしただけかもしれない。本当のところは分からない。
でも、少しだけ引っかかった。
僕はAIに「ここはどんな場所?」と聞いた。後ろの人はAIに「ここで何をしていい?」と聞いた。
同じようで、少し違う。
この違和感については、旅から帰ったあとにもう一度考えることになる。
そして、本当に何も見えなくなる
列が進み、ようやく善光寺本堂のお戒壇巡りへ入る番が来た。
御本尊の真下にある暗い回廊を進み、「極楽の錠前」を探す。いよいよ、その暗闇の中へ入っていく。
目が慣れれば、うっすら何か見えると思っていた。
見えない。暗いというより、何もない。
「あっ」「すみません」
姿は見えないのに、人の声だけが妙に近く聞こえる。右手の壁の感触だけだ頼りだった。
後ろから誰かがぶつかった。
「すみません」と聞こえる。
僕はとっさに答えた。
「大丈夫です。どんどんぶつかってください」
なぜ推奨した。暗闇では、人への気遣いも少しおかしくなるらしい。
壁を探りながら進むと、手に金属っぽいものが触れた。錫杖みたいな、振ったら音が鳴りそうな感触。
これか? これが鍵?
もう一度確かめたい。でも後ろが詰まっている。……しかたなく進んだ。
そして、しばらくして光が見えた。
終わったー。
明るい。見える。普通に見える。それだけで、ものすごく安心した。
怖かったかと言われると、そこまで怖かった感覚はない。
だから僕としては、平気だったつもりだった。
本堂の外へ出る。よし。終わった。
……と思ったら、太ももの内側が小刻みに震えていた。
僕は平気だったと言っている。太ももは異議を申し立てている。
暑さなのか。歩き疲れたのか。それとも、自分で思っていたより暗闇が効いていたのか。
分からない。
しばらくその場で、僕と太ももの和解を待った。
空白が、一つ残っていた
お戒壇巡りを終え、太ももとの和解もなんとなく成立したので、次は経蔵へ向かった。
経蔵の中には、仏教経典6,771巻を収めた大きな輪蔵がある。これを時計回りに一周押し回すと、すべてのお経を読んだのと同じ功徳が得られるとされている。
6,771巻を読む知力はない。
一周回す体力なら、まだある。
僕向きの救済システムだった。
ただ、僕が来たときはちょうど前列の人たちが回し終わっていた。
順番待ちかな?と思っていたら、受付の人が、
「一人で回されてみますか?」
と提案してくれた。
え、いんですか?と即答。一人で回せることになった。

柱の持ち手に立ち、必死で前に押す。重くてしばらくは動かなかったが、ちょっと動き始めたらスムーズに回り始めてあっという間に一周できた。
気分はゼルダの伝説で謎を解いた後の爽快感があった。(パパパパーン♪)
経蔵を見終え、3つ目のハンコを押してもらった。
そこで台紙を見る。
● ●
●
空白が、一つある。
ここでようやく理解した。
「あ、これ4カ所あるんだ」
最初から全部回るつもりだったわけではない。そもそも、全部で何カ所あるのかちゃんと分かっていなかった。
でも、3つ埋まった状態で残り1つを見てしまった。
4つ回るのは大変そうだ。でも、あと1つなら。
せっかくなら、踏破するか。
実は旅の前に作ったしおりには、「急がない。全部回らない」とAIが書いてくれたが。
その方針をも読んでいた……わけではなかった。
空白一マスを見て、そのまま史料館へ向かった。
家で旅の哲学を語っていた41歳。現地でスタンプ台紙に挑戦する41歳。
そして美術館へ行き、最後のハンコを押してもらった。
善光寺ミッション、踏破。

全部回る予定なんてなかったのに、揃った瞬間は妙にうれしい。
汗だくで歩き、暗闇で「どんどんぶつかってください」と言い、太ももと揉めながら集めた4つだ。
そりゃあ、少しテンションも上がった。
そして人間は、少しテンションが上がった時が危ないらしい。
「元祖」と書かれていた
スタンプを4つ揃え、少し気分が良くなっていた僕の前に、ある案内が現れた。

「元祖おみくじはこちら」
元祖。なんという強い言葉だろう。
普通のおみくじなら通り過ぎたかもしれない。でも元祖なのである。
本家。発祥。限定。
このあたりの言葉を置かれると、僕の中の「せっかくだし」が活動を始める。
しかも、棒の入った筒をガシャガシャ振るタイプのおみくじは、以前に浅草寺でやったことがあった。
懐かしい。スタンプも揃った。旅のテンションも上がっている。条件は整った。
ん?マーケティングにやられたって?
……そうさ、やられたさ!
100円を納め、筒を振る、そして棒が出た。
第一番。
おお、なんか強そうだ。そして紙を受け取ると、その上には大きく書いてあった。
大吉。
第一番。大吉。強い!やったーーーーー!
これはもう、旅の初日から勝ったと言っていいのではないか。そう思って、その下を読む。
……。
何が書いてあるのか、分からない。
日本語ではある。漢字も読める。
でも内容が、まったく頭に入ってこない。
暑い。歩いた。暗闇にも入った。スタンプも集めた。
僕の脳はもう、細かい文章を処理する業務を終了していた。
大吉だけは読めた。
このままでは何の大吉なのか分からない。そこで再びスマホを取り出した。
AIコンシェルジュ、再登板。
さっきは「AIに判断まで任せるのってどうなんだろう」と引っかかっていた男が、数十分後にはおみくじの読解をAIへ投げている。
「これ、何て書いてある?」
AIコンシェルジュは、旅先の案内から古めの日本語の読解まで担当することになった。
僕のAIは業務範囲が広いのだった。

帰り道で、親切が片道切符になる
善光寺をひと通り回ったあと、丸八たきやで、ざるそばとミニ天丼のセットを食べた。
ここまで歩いて、汗をかいて、暗闇へ入って、スタンプにも負けた。さすがに腹は減っている。
食べ終わるころには、歩数も8,700歩を超えていた。
でも僕は、帰りも長野駅まで歩こうと思っていた。
まだいける。
そう思っていただけだった。
善光寺を離れてしばらく歩いたところで、急に力が抜けてきた。
暑い。疲れた。座りたい。
旅人Lv.1、ここでカフェを探し始める。
一軒目のカフェへ入ろうとしたとき、少し足が不自由そうに見える女性がいた。
僕は扉を開け、先に入ってもらった。そのまま後ろについて入る。
「今のお客様で満席です」
最後の一席に座ったのは、今、僕が先に通した女性だった。
親切をした。しかし席がなくなった。親切、即時払い戻しなし。
もちろん、その女性は何も悪くない。
悪くない。分かっている。でも、僕の席……。
しかたなく店を出て、もう少し歩いた。現実は非常である。
善光寺から少し離れたところで、カフェまち案内「えんがわ」に辿り着いた。
空いているみたいなので、すぐ入った。

ようやく座れる。
そして汗だくだった僕を見てか、店の女性が水を出してくれた。
頼んでいない水だった。でも、その時はすごくうれしかった。
さっきの店では、親切をしたら席がなくなった。今度の店では、何もしていないのに水をもらった。
親切は、同じ場所から返ってくるとは限らないらしい。
配送元が違っただけなのかもしれない。
長野の夜は、まだ終わらない
カフェで少し回復したあと、今度は文明を使った。
バスでホテルへ向かう。
朝の僕なら「せっかくだし歩こう」と言ったかもしれない。
夕方の僕は、もう知っている。バスは偉大だ!!
これが長野について気づいた二つ目のライフハックだった。
ホテルへ荷物を置き、無料シャトルバスで「裾花峡天然温泉宿 うるおい館」へ向かった。

僕が座ったのは車内の真ん中あたり。走り始めると、座席から細かい振動がずっと伝わってくる。
無料送迎に、無料マッサージまで付いてきた(笑)。
ただし停止ボタンはない。
温泉そのものは気持ちよかった。ただ、ここでもちょっとした事件に遭遇してしまった。
露天風呂で蜂の巣を見つけ、店員さんへ報告したあとも気になって、勝手に監視員のようになった話は別に書いた。
別の話:温泉で蜂の巣を見つけて、勝手に監視員になった日
旅って行く先々でなんかあるもんだなーと思いつつ、温泉を出て長野駅へ戻る。
そのころには、お腹が減っていた。
しかも体がカロリーを求めているのが分かるくらいだった。
なので長野駅に入り、明治亭へ向かった。

ここのソースロースかつ丼が美味しいらしい。
ただ、大盛りにするつもりはなかった。これは本当だ。
だが、店員さんに聞かれた。
「大盛りですか?」
「いえ、だい「大盛りで」
あ…ありのまま。今、起こった事を話すぜ!
おれは店員の前で「いえ大丈夫です」と言おうと思ったら、いつのまにか「大盛で」と言っていた…。
な… 何を言ってるのか、わからねーと思うがおれも何をされたのかわからなかった…。
頭がどうにかなりそうだった…。
催眠術だとか超スピードだとかそんなチャチなもんじゃあ、断じてねえ…。
もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…。
ちなみに、かつ丼は最高でした。
そのあとスーパーで少しお酒を買い、ホテルの部屋で一人打ち上げをした。

善光寺へ行った。全部回った。大吉も引いた。温泉にも入った。かつ丼も大盛りにした。
初めての一人旅、1日目終了。
ここまでは、よかった。
夜中。目が覚めた。
眠れない。明日は戸隠神社の奥社へ行く予定である。
ちょっと現実の話。1日目、いくら使った?
ここまで汗、暗闇、スタンプ、大吉、大盛りと忙しかった。
でも旅行記を読んでいると、僕なら途中で別のことが気になる。
「それで、いくら使ったの?」
急に現実である。なのでここに残してみた。参考になるだろうか?
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 新幹線・新高岡→長野 | 7,620円 |
| ホテル・朝食付き | 6,760円 |
| 善光寺参拝セット券 | 1,500円 |
| 丸八たきや(お昼代) | 1,600円 |
| うるおい館 | 1,280円 |
| 明治亭(夕飯代) | 2,010円 |
| スーパー | 1,335円 |
| 確認できた分の合計 | 22,105円 |
※カフェなど、金額を個別に確認できていない支出は含めていません。帰りの交通費、戸隠、お土産などを含む旅全体の金額は2日目でまとめます。
ホテルを朝食付き6,760円で取れたのは、今振り返ってもかなり大きい。
一人旅の不安は消えなかったが、宿泊費は僕の味方だった。
帰ってから、空白一マスに負けた理由を考えた

旅から帰って、4つ埋まったスタンプ台紙を見た。
そして思い出した。旅行前のしおりには、ちゃんと書いてある。
「急がない。全部回らない。」
全部回っている。しかも33.6℃の日に。
家で決めた旅の哲学は、善光寺の空白一マスに完敗した。意志が弱かったのか。スタンプ台紙が強すぎたのか。
悔しいので、心理学のせいにできないか調べてみた。
※僕は心理学の研究者ではありません。ここでは研究結果を診断や断定に使わず、今回の体験を読み直すヒントとして扱います。
「あと1個」が見えると、人はちょっと強くなるらしい
そこで出てきたのが、目標勾配効果(ゴール・グラディエント)という考え方だった。
ざっくり言えば、ゴールが近づいていると感じるほど、そこへ向かう行動が強まりやすくなるというもの。
2006年に発表された研究では、実際のカフェの特典プログラムで、無料報酬へ近づくほど購入間隔が短くなる傾向などが報告されている。
もちろん僕の善光寺巡りは心理学実験ではない。同じ現象だったとは断定できない。
ただ。
● ● ● ○
これを見た瞬間、「全部回る」が生まれたのは事実だった。
最初から「4つ集めろ」と言われていたら、暑さを理由に諦めていたかもしれない。
でも3つ持った状態で、残り1つを見せられる。
「あと1個ですよ」
ずるい。非常にずるい。
でも、これ。日常では逆に使えるかもしれない。
ばから式・空白一マス作戦
やりたいことを3〜4個くらいに分ける。終わったら印をつける。そして「あと1個」が見えるところまで進めてみる。
掃除でもいい。ブログでもいい。筋トレでもいい。
「全部やらなきゃ」だと重いのに、「あと1個」になると少し手が出やすくなるかもしれない。
ただし善光寺で学んだ注意点もある。
空白は、疲れている人にも容赦がない。
次からはゴールだけではなく、「ここまで疲れたら撤退」も先に決めておきたい。
スタンプは埋めたいけど命のゲージは減らしすぎない。
つまり「命はだいじに」である。
AIコンシェルジュは、館内ルールの責任者ではない
もうひとつ、旅から帰っても残っていたのが、お戒壇巡りの列で聞いた「写真撮っていい?」だった。
僕自身、今回の旅ではAIをかなり使った。善光寺について聞く。歩き方を聞く。おみくじを読んでもらう。
ほぼ同行者である。
でも、あの場面では少し引っかかった。
「ここはどんな場所?」と情報を聞くことと、「ここでやっていい?」と最後の判断まで聞くこと。
同じ「AIに聞く」でも、少し違う気がした。
AIやアルゴリズムからの助言を、人がどのくらい受け入れるのかを調べた研究もある。
2019年の研究では、一定の数値推定や予測課題で、人は人間由来よりも「アルゴリズム由来」とされた助言を強く取り入れる場合があることが報告されている。
ただし、これは善光寺で見た男性の心理を説明する研究ではない。
あの人が何を考えていたのかは、僕には確認できない。
だから持ち帰ったのは、もっと単純なことだった。
AIコンシェルジュに頼みたいこと
知らない場所の情報、選択肢、見落としの確認。
自分で持っておきたいこと
目の前の表示を読むこと、人への配慮、最後に「やる・やらない」を決めること。
AIに知識を借りても、判断まで預けなくていい。
このくらいの距離が、今の僕にはちょうどいい。
コンシェルジュではある。だが支配人ではない。

大吉の中に、利用規約が入っていた
そして、あのおみくじ。
その場では、ほぼ「第一番」「大吉」しか読めなかった。
今思うとずいぶん都合のいい参拝者である(笑)。
あとから改めて読むと、大吉ではあるけれど、勢いに任せてやり過ぎないことや、油断しないことを促す内容も入っていた。
暑い中を歩き、善光寺を全部回り、大盛りのカツ丼まで注文した男に、
「やり過ぎるな」
と言ってくる。
未来を占うというより、直前の行動を添削されている。しかも本人は、その場では読めていない。
大吉は引けた。だが説明書の読解には失敗した。
実はおみくじについては、日本心理学会の大会でも「おみくじの利用と的中の価値」を扱った研究発表がある。
ただ、今回僕が面白いと思ったのは、当たったか外れたかよりも、あとから読み返したときにどの言葉が自分へ引っかかったかだった。
僕の場合は「大吉」より、「やり過ぎず」「油断すべからず」の方が残った。
たぶん、その日の僕に身に覚えがありすぎた。
おみくじを引いたら、当たる・外れるの前に「今の自分が妙に気になった一文」を一つだけ持ち帰る。
大吉にも注意書きはある場合が多い。つまり運勢にも利用規約があるらしい。
結局、ほとんど現地で知った
改めて振り返ると、今回の一人旅は準備万端とは言いにくい。
新幹線の中で善光寺を調べ、現地で参拝券の仕組みを知り、暗闇で触ったものが極楽の錠前なのか自信がなく、おみくじの日本語には降参した。
完璧な旅人からは、かなり遠い。
それでも長野には着いた。
善光寺まで歩いた。暗闇にも入った。スタンプは全部集まった。一人でカフェにも入った。温泉にも行った。かつ丼大盛りも食べた。(ちなみに大盛りは別に達成項目ではない。)
旅の前は、「ちゃんと調べてからじゃないと不安だ」と思っていた。
でも今回くらいなら、全部を知ってから出なくてもよかったのかもしれない。
安全に帰るためのことは先に決める。あとは、進みながら知ってもいい。
宿、交通、帰る方法、体調を守る装備。そこは先に押さえる。
でも観光地の細かな知識まで、全部覚えてから出発しなくてもいい。
少なくとも僕の場合、全部調べ終わるのを待っていたら、
今も新高岡駅にいる可能性がある。
それよりは、これでよかった。
おわりに|「一人旅」という言葉が、少しだけ小さくなった
41歳、初めての一人旅。その1日目。
不安は新高岡駅へ置いてこられなかった。汗は止まらず、親切をしたら席を失い、全部回らないと言いながらスタンプは全部集めた。
大盛りにする気はなかったのに、大盛りにもした。
予定通りとは言いにくい。
でも、ちゃんと旅だった。

知らない街を一人で歩いて、知らない店へ入り、暗闇へ入り、疲れたら休んだ。
人生が変わったわけではない。急に一人旅の達人になったわけでもない。
帰ったら普通に洗濯物もある。
ただ。
出発前は大きく見えていた「一人で旅行する」という言葉が、少しだけ小さくなった。
たぶん、今回持ち帰ったものの中では、それが一番大きい。
……そして。
ホテルで一人打ち上げをして、そのまま気持ちよく眠れれば、非常にきれいな第1話だった。
夜中。
目が覚めた。
眠れない。
翌日は戸隠神社。しかも奥社。
朝は起きられるのか。バスに乗れるのか。今日これだけ歩いた足で、さらに山道を歩くのか。
41歳・旅人Lv.1。次のクエストだけ、明らかにレベル設定がおかしい。
長野ミッション2日目。寝不足の戸隠編へ続きます。
この記事で残したい4つのこと
1.今日のまとめ一行
不安がなくなってから動くのではなく、不安を連れたままでも旅は始められる。
2.今日できる一歩
重く感じることは3〜4マスに分けて、一つ終わったら印をつける。「あと1個」まで来たら、最後の一歩が少し軽くなるかもしれない。
3.次に読む一記事
次回は長野ミッション2日目・戸隠編。初日の夜に眠れなくなった旅人Lv.1が、戸隠神社の奥社を目指します。
4.ブログ案内
「ばからシリーズ」では、少し馬鹿らしい行動を本気でやって、あとから心理学っぽく振り返っています。人生を一発で変える話ではなく、今日を少しだけマシにするための実験です。
参考資料・出典
- 善光寺「参拝券のご案内」(参拝セット券の対象施設・料金)
- 善光寺「巡る」(お戒壇巡り・極楽の錠前・主要施設)
- 善光寺「主要施設」(山門・経蔵・史料館)
- 気象庁「長野(長野県)2026年8月 日ごとの値」(8月23日の最高気温)
- Kivetz, Urminsky & Zheng(2006)“The Goal-Gradient Hypothesis Resurrected”
- Logg, Minson & Moore(2019)“Algorithm appreciation: People prefer algorithmic to human judgment”
- 村上幸史(2010)「おみくじの利用と的中の価値」
旅行中の歩行記録、レシート、予約内容、本人の記録・記憶をもとに構成。旅行日:2026年8月23日。資料再確認日:2026年9月9日。

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